Nスクエアのこと

about

Nスクエア建築秘話

Nスクエアの設計を担当された隈研吾建築都市設計事務所の茂中さんにお話を伺いました。茂中さんはグリーナブルヒルゼンや岡山大学共創コモンズなども設計されています。

茂中大毅(もなかたいき)さん。香川県出身。学生時代は岡山で建築を学び、卒業後は隈事務所へ。小学生の頃から椅子などの家具を作ったりプラモデルを作ったり、もの作りが好きだったそう。

ーまずはNスクエアのデザインについてお聞きします。大きな板が積み重なったような斬新で迫力のあるデザインはどうやって生まれたのでしょうか?

今回の敷地内には崖があるんですが、それを立体的に活かすのが面白いんじゃないかということで、1階と2階を別のボリュームとして配置して、入口も別々にして、でも建物としては一体であるものを作っていこう、という方向性をまず決めました。

敷地の奥は4~5mほどの崖になっていた

その中でCLTを使って何かしようという考えが隈にもずっとあって、新しいことをしたい、ダイナミックにしたいと思っていて、これ隈が書いたスケッチなんですけど、

何度も描かれた線は、どういう角度が良いかなどのイメージを固めるための痕跡

こういうバッテンで交差するようなものを積み重ねていくのが面白いんじゃないか、ということでこういう形が決まっていきました。

ー下にあるのは立面図ですか?

そうですね。人が入れるフロアの高さが崖の高さともマッチしていて、パネルを二段積み重ねて1フロアなんですけど、それだとちょうど崖の上にももう1フロア作るのにちょうど良い高さになるね、という具合に話をしていきました。

ーこういうスケッチを描きながら打ち合わせをされるんですね。

いえ、隈からこういうスケッチが出てくることは珍しいですね。僕たちがCGや模型を作って持っていっても「うーん、違うなぁ」というのを繰り返すことが多いんですけど、今回は隈も気合が入っていたようで、電話がありまして「今から打ち合わせしよう」と。それでもっとこうしたいなど話をしました。

ーそんなことがあったんですか。ではこれは貴重なスケッチですね!ちなみに茂中さんからみた隈先生ってどんな方なんでしょうか?

指摘が鋭くて、物事を決めるのがとても早い人ですね。忙しいので打ち合わせの時間がなかなか取れなくて、取れても5分10分なんですけど、隈がすぐに比較して見れるように段ボールいっぱいに図面を貼って毎回プレゼンするみたいな形で、その時もすぐにこれって決めますね。
実はこのスケッチの前にもかなりの数、何十も設計をしていたのですが、このスケッチ以降は結構早かったです。実際に使える部屋のサイズとか、構造的、法的にも問題がないように検討を重ねながら設計を進めました。

Nスクエアの建築模型。隈先生がつけた印があり、打ち合わせの跡が見える。

ープロの目からみた時の一番のこだわり、見所は何でしょうか?

見所はやはりCLTのパネルが積み重なった外観ですね。それを見所にするために、外壁になるべく何もつけないように工夫をしています。換気のダクトなどをなるべく見えないようにして、壁が1枚のパネルに見えるように意識しています。

一枚板が積み重なったような外観

ー見えないようにというのは、どこかに隠しているんですか?

そうですね。例えばパネルが交差している部分が「跳ね出し」になっていて、換気ダクトがその内側のパネルに隠れるように配慮したりしています。

外側のパネルで隠れる位置に換気ダクトを入れるなどの配慮

あとはパネルの存在感を強調するために、高透過の大きなガラスを使っています。通常のガラスだと青っぽくなるんですけど、高透過のガラスはそこに何もないくらい透明なので、建物内からみた時にも外側のパネルの存在感が強調されます。

酸化鉄の含有量が少ない透明ガラスを使い、上下2辺で支持することによってガラス自体の存在感を極力なくしている

ー隈先生が今回のプロジェクトは挑戦だったと言われていますが、何が挑戦でしたか?

CLTを積み重ねて角度を変えてというのが初の試みで、こういう表現をすること自体が一番の挑戦でしたね。

ーその挑戦にはどんな課題がありましたか?

まずは今回の特殊な形状の設計としては設計期間が短かったことですね。今回の特殊な形状を構造的にもどう実現するか、構造計画研究所さんと議論を重ねました。そして形状や壁の使い方を工夫すれば、オーソドックスなCLTの工法でも構造的にも問題がなく、設計期間の短縮にもつながることが分かりました。

ーなるほど、それは新しい発見だったのですか?

そうですね。オーソドックスなCLTの使い方でも、もっと自由な形が作れるということに、これからのCLT建築の可能性を感じました。

CLTを様々な角度で積み重ねていく

CLTは工場でカットしたものを組み立てるという方法なので施工期間が短いという利点もあるんですが、逆に基礎の精度がすごく求められるんです。水平垂直だとまだいいんですが、今回は平面的に角度がついてるので、施工を担当してくださったユージー技建さんも何度も墨出しして何度も位置を再確認して頑張ってくださいました。

ー基礎ができてからの施工は順調に進んだのですか?

通常の収まりではないことろがいっぱいあるので、困ったところはありました。例えば、二階のガラスが一階よりも内側に角度が入っていて、そこの雨水の止水は何度も議論しました。あとは屋根の端にある水切りですね。通常は50ミリくらい水切りの立下りが出るのですが、CLTパネルを邪魔しないデザインにしたいので、水切りが見えない納まりとしています。ここもユージー技建さんと性能的な議論をしました。

上部の板金をなるべく薄くし、パネルからの飛び出しも極力抑えている

ークライアントであるシステムズナカシマからの最初の要望はどんなものだったんですか?

明るくて開放的な、町民の方とかそれ以外の方もみんなで集まれるような場所、小さい部屋じゃなくて大きい部屋を作りたいという要望でした。カフェ兼相談所みたいなイメージや、コワーキングスペースのことも最初から言われていました。

ーそれらの要望をデザイン設計にどう落とし込んでいったのでしょうか?

木造建築は四面すべてを壁にするのが強度の面で一番合理的なんですけど、明るくて開放的ということで、両サイドを壁にして、前後方向は大きく開けるようにしました。壁にはCLTを2枚重ねることで剛性を高めています。さらに両サイドにもガラス面を増やして開放的にする工夫もしています。

両サイドの壁を正面から少し奥に下げることで、ガラス面を増やしている

ーいろんな工夫をされているんですね。今回のプロジェクトで茂中さんが最も印象に残っているのはどんな瞬間ですか?

一番は、隈のバッテンのスケッチをみた時ですね。木材を交差して積み重ねるデザインは今までにもやったことはあるんですけど、それを今回のようなサイズ感でやるのは本当に成立するのか不安でした。ただCGや模型を作るにつれて、だんだん成立しそうだなと思ってきて、実際に現場で仮囲いが外れて、この形が出てきた時には、予想外というわけではないんですけど、実現できていることに感激しました。

ー思い入れのあるNスクエアのなかで、茂中さんが一番気に入っている場所はどこですか?

一番気に入っているのは外から見た時の見え方ですね。隈としてもそうなんですが、岡山空港から来るときに最もダイナミックに見えるように作っています。
建物の中でいうと、パネルのずれによってできた二階の小さなスペースですね。人が入れる部屋として機能する最小限のスペースを作ろうとして、小屋の中にいるような居心地の良いサイズ感になっていて、切り抜かれたガラスからの景色もあって、楽しい空間になっています。

二階の小さな小部屋。窓からの景色も良い。

ー非日常的で素敵な空間ですね。最後に、Nスクエアにこれからどうなってほしいですか?

吉備中央町のシンボルになってほしいという思いで作ったんですけど、実際にオープンして、皆さんに来ていただいて、ただのシンボルじゃなくて、ちゃんと交流の拠点になっていくというのを一番に願っています。

今後もいろんな種類の建築に携わり、なんでもできるようになりたい、と茂中さん。
Nスクエアの設計ありがとうございました。

記事一覧